終了しました 活動記録 ワークショップ「移民第2世代のコネクティビティとアイデンティティ」(Aug. 4)

2022.06.23

カテゴリ: ワークショップ

班構成: A03 移民・難民B02 思想と戦略

A03「移民・難民とコミュニティ形成」班とB02「思想と戦略が織りなす信頼構築」班は、東洋大学社会学部の村上一基さんをお招きし、ワークショップ「移民第2世代のコネクティビティとアイデンティティ」を開催いたします。
多くの皆様のご参加をお待ちしております。

イスラーム信頼学ワークショップ「移民第2世代のコネクティビティとアイデンティティ」


日時:2022年8月4日(木)13:00-15:00
報告者:村上一基(東洋大学社会学部)
報告題目:「フランスにおけるムスリムコミュニティと移民第2世代」
コメンテーター:工藤正子(立教大学、B02班研究分担者)
司会:黒木英充(東京外国語大学AA研/北海道大学SRC、A03班研究代表者・領域代表者)


【発表要旨】
フランスは、1980年代以降、マグレブ諸国やサブサハラ諸国をルーツに持つ移民第2世代の統合が社会問題のひとつをなしてきた。そこではかれらの学業挫折や失業、非行・犯罪などだけでなく、スカーフ論争やテロリズムをはじめとする「イスラーム」が問題とされてきた。本報告では、2009年からパリ郊外で実施してきた調査の結果から、ムスリムが集住する地区において、いかにイスラームが「遍在」しており、そのことが地域のコミュニティ形成にどのように機能しているのか、また家族や地域社会が第2世代のアイデンティティにどのような影響を与えているのかを検討する。そして、地域社会においてイスラームが日常生活の基本原理となっているだけでなく、人びとのつながりをつくり、支えとなっていること、第2世代は家族で伝承されたイスラームを家族のつながりとして保持したり、「個人主義的な選択」として新たなアイデンティティとして探求していくことを明らかにする。

使用言語:日本語
開催形態:一般公開/無料、Zoomによるオンライン開催(事前登録制)
こちらのリンクよりお申込みください。
https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZUrd-iqqDssHN1jSWkMXKGjPGbu9Z789h0k

共催
科研費学術変革領域研究(A)「イスラーム的コネクティビティにみる信頼構築:世界の分断をのりこえる戦略知の創造」
A03班「移民・難民とコミュニティ形成」(研究代表者:黒木英充(ILCAA/SRC); 20H05826)
B02班「思想と戦略が織りなす信頼構築」(研究代表者:山根聡(大阪大学);20H05828)

問い合わせ・連絡先
太田絵里奈 e.otatsukada[at]aa.tufs.ac.jp

活動記録

【報告】
 フランスはヨーロッパでもっとも多くのムスリム人口を数え、社会に統合されている若者も多く、「マイノリティ」が多層化している。こうしたなか、スカーフ問題やテロリズムなどイスラームがしばしば社会問題とされ、極右政党の台頭をはじめとするイスラモフォビアも見られる一方で、当事者による社会運動や学術研究などもなされるようになっている。フランスにおけるイスラームを研究するには、社会におけるイスラームの位置づけやそれへの抵抗(政治)と、ムスリムコミュニティやアイデンティティなどの人びとの生活におけるイスラームの位置付け(生活世界)を両輪で考える必要がある。本報告では、とりわけ後者の「生活世界」に着目し、ムスリムが集住する地区においてどのようなムスリムコミュニティが形成されているのか、そのことが地域のコミュニティやコネクティビティの形成にどのように機能しているのか、また家族や地域社会が第2世代のアイデンティティにどのような影響を与えているのかを検討した。
 フランスのイスラームのコネクティビティとして、地域社会のレベルでは、それが日常生活の基本原理となり、コミュニティにおけるつながりをつくるものであること、女性は抑圧される一方で、行動するのは女性であるなどジェンダーのパラドキシカルな配置が見られることを明らかにした。また第2世代にとっては、イスラームがアイデンティティのひとつとなっていることを検討した。かれらは家族とのつながりや地域社会における影響を多かれ少なかれ受けつつ、イスラームを家族のつながりとして保持したり、「個人主義的な選択」として新たなアイデンティティとして探求しており、それが自尊心を与えるものになっていた。こうしたアイデンティティを考える際には、何とどのようにつながっていくのかを考えていく必要があるだろう。
 フランス社会のなかで「問題」として取り上げられることの多いイスラームであるが、コネクティビティとアイデンティティという側面から考えると、社会からの否定的なまなざしによって、ムスリムが、他の市民と同じように宗教を信仰し、実践することをより困難なものにしてしまうこともある。社会的、地政学的背景のなかでコネクティビティやアイデンティティを承認し、社会に「統合」していくことは重要な検討課題のひとつである。

【議論】
コメンテーターの工藤正子氏から多くのコメントをいただいたが、そのいくつかを紹介したい。
・家庭や地域のイスラームについて、日英の「文化ー宗教」の対立的な語りとの比較から、地域コミュニティや家庭におけるイスラームの日常実践を視野に入れることは、「文化-宗教」という二項対立だけに回収されない、若者たちの記憶、経験や感情の複雑性を理解するうえで重要な糸口となるのではないか。
・イスラームの信頼とコネクティビティとして、矛盾や緊張を内包する社会的現実のなかで、それらをイスラーム的実践によってどう乗り越えられるのか。
・「オルタナティブな統合」を可能にするイスラーム実践は、主流社会の側からはどのように見えるのか。脅威でなく、非ムスリムとの間につながりを醸成するものとなりうるのか。

 また研究会参加者からは、統合やアイデンティティなどに関する用語の確認や、ライシテという原理があるなかで第2世代はどのように自己定義するのか、学校に対する信頼が問われているのではないか、などさまざまな質問・コメントをいただいた。
 研究会での議論を受けて、とりわけコネクティビティと信頼というキーワードからフランスを見ることで、フランス社会に特有な文脈があることを再度認識した。こうした社会の文脈を考慮に入れながら、さまざまな社会におけるムスリムの特徴を示していく比較研究なども報告者の今後の課題としていきたい。(村上一基、2022年9月2日掲載)

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