終了しました 活動記録 シンポジウム「パレスチナの歴史と現在:入植者植民地主義と抵抗の100年を考察する」(Dec. 21)
23.12.01
カテゴリ: シンポジウム
イスラーム信頼学B03班「紛争影響地域における信頼・平和構築」は、A03班「移民・難民とコミュニティ形成」、立教大学異文化コミュニケーション学部との共催で、シンポジウム「パレスチナの歴史と現在:入植者植民地主義と抵抗の100年を考察する」を開催いたします。
過去に例を見ないガザ情勢の緊迫化のなか、パレスチナ/イスラエルが辿ってきた歴史への関心が高まっています。パレスチナ問題はいかにして生じ、そして現在に至ったのか。本企画ではコロンビア大学エドワード・サイード特別教授であり、米国籍パレスチナ人のオピニオンリーダーでもあるラシード・ハーリディー教授の著作『パレスチナ戦争:入植者植民地主義と抵抗の百年史』を題材に、パレスチナ問題の歴史と現在を考えるための視座を考察します。
使用言語:日本語
開催形態:対面(一部、オンラインでの登壇あり)
事前登録:https://forms.gle/Q4eFaZB6z3DvWYYD9
プログラム:
15:20 開会の辞 石井正子(立教大学・教授)
15:30 報告① ガザ情勢とパレスチナの歴史・鈴木啓之(東京大学特任准教授)
15:50 報告② ハーリディー家とパレスチナの歴史・山本健介(静岡県立大学講師)
16:10 報告③ パレスチナを考えるための視座・金城美幸(立命館大学研究員)
16:30 休憩
16:45 コメント・黒木英充(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)
17:00 コメント・日下部尚徳(立教大学准教授)
17:15 質疑応答
17:45 閉会の辞
<講師プロフィール>
鈴木啓之(すずき ひろゆき)
東京大学大学院総合文化研究科スルタン・カブース・グローバル中東研究寄付講座特任准教授。日本学術振興会特別研究員PD(日本女子大学)、日本学術振興会海外特別研究員(ヘブライ大学ハリー・S・トルーマン平和研究所)を経て、2019年9月より現職。著書に『蜂起〈インティファーダ〉:占領下のパレスチナ1967–1993』(東京大学出版会、2020年)、共編著に『パレスチナを知るための60章』(明石書店、2016年)がある。
山本健介(やまもと けんすけ)
静岡県立大学国際関係学部講師。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程(五年一貫制)修了(博士:地域研究)。日本学術振興会特別研究員PD(九州大学)を経て、2021年4月より現職。主著に『聖地の紛争とエルサレム問題の諸相:イスラエルの占領・併合政策とパレスチナ人』(晃洋書房、2020年)がある。
金城美幸(きんじょう みゆき)
立命館大学生存学研究所客員研究員、愛知学院大学等非常勤講師。立命館大学先端総合学術研究科(五年一貫性)修了。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員RPD(東京大学)などを経て現在に至る。主な論文に「パレスチナとの交差を見つけ出すために――交差的フェミニズムと連帯の再検討」在日本韓国YMCA編『交差するパレスチナ――新たな連帯のために』(第1章)、「歴史認識論争の同時性を検討するために――イスラエルと日本」『現代思想』(2018年5月号)などがある。
問合せ先:山本沙希(yamamoto_saki[at]rikkyo.ac.jp)
*本イベントに関するお問い合わせは、前日18:00までにお願いいたします。
活動記録
ラシード・ハーリディー著『パレスチナ戦争:入植者植民地主義と抵抗の百年史』(鈴木啓之・山本健介・金城美幸訳、法政大学出版局)の刊行を受けて開催された本企画では、石井による開会挨拶に続いて、訳者3名の報告が行われた。
鈴木報告では、ガザ地区で現在起きている戦争が過去最悪の事態であることに触れつつ、ハーリディーの歴史記述からパレスチナを理解するための視座が提示された。特に著作の最後に挙げられていた「比較」、「力の不均衡への注目」、「不平等の問題」を指針として、パレスチナの現実を理解する必要が述べられた。
続いて山本報告では、ハーリディー家がパレスチナ近現代史で果たしてきた役割に論及しながら、「国立公文書館」を持つことがなかったパレスチナ人らにとって、歴史を描き出すことの難しさが指摘された。特にハーリディー家が管理するエルサレム旧市街の図書館の役割に触れつつ、イスラエルの「新しい歴史家」とは異なり、挑むべき「公定史」を持たないパレスチナ人研究者の置かれた環境が整理された。
最後に金城報告では、ハーリディーが着目した入植者植民地主義という理解の枠組みが、比較の視座を持つ点が論じられた。ことにイスラエルと日本の植民地主義の比較に関して、このシンポジウム開催の直前に亡くなった徐京植氏の議論に言及しながら、パレスチナの100年戦争と朝鮮半島の150年戦争の同時代性について提起が行われた。
これらの報告を受けて、日下部によるコメントでは、バングラデュのパレスチナ大使館でガザの写真が外壁に展示されていることが最新の現地調査から紹介されるとともに、当事者による語りの力強さと、その語りを前にした「外国人研究者」のあり方について、議論が提起された。また、黒木によるコメントでは、100年前の中東再編の際に、シリアの知識人が果たしていた役割が示され、パレスチナ現代史が中東史に占める重要な位置づけが論じられた。また、本書が日本語に訳出された意義が強調され、パレスチナ問題に対する日本社会の理解促進に貢献するであろうとの期待が述べられた。
会場からはハーリディーによる歴史記述がどれほどパレスチナで受容されているのか、今回のガザでの出来事に過去の事例に照らして国際社会はどのように対処すべきなのか、といった点が質問として挙げられ、活発な議論が展開された。なお、当日は本書の刊行にあたって多大な尽力を頂いた法政大学出版局の奥田のぞみ氏に参加を頂いた。ここに記録して、改めて御礼申し上げたい。(鈴木啓之)