本領域研究は、コネクティビティと信頼構築の問題を、空間的にも時間的にもミクロからマクロまでの伸縮自在な範囲で問題とするため、設定される個別研究テーマも相互に関連し合うものがある。このため、可能な限り様々な組み合わせの複数班共催により、研究会やワークショップを開催する。
その一環として、2021年度(京都)、2022年度(大阪)、2023年度(東京)に開催する大型国際会議は、比較的テーマの近い2つの班のペアを中心として企画する形態をとる。総括班はそれらを常に調整・補佐し、C01人文情報学班はこれらの会議に自在に関与する。そして最終年度の2024年度に総括班の企画により東京にて総括国際会議を開催する。
計画研究班A02は、イスラームの拡大に連動する知識と情報の拡散の過程において、それらがどのように変換され、またその結果として交渉・紛争解決に役割を果たしたのかという問題に焦点を当てる。「イスラーム思想・学知の伝播と翻訳」「イスラーム法を中心とする多元的な司法制度」「国際商業の場における交渉・ネットワーキング」を切り口に、、現地調査および文献調査を踏まえて、コネクティビティの知恵を見出す試みである。
計画研究班A03は、近現代に大規模化した移民・難民問題におけるムスリム・非ムスリム間の相互的関係づくりと信頼構築を大テーマに、「日本、欧米、東南アジアのムスリム移民コミュニティ形成と受入れ社会の関係」「難民支援をめぐる移民コミュニティ間のコネクティビティ」「国際政治における移民・難民の主体性と影響力」などの個別テーマについて、現地聞き取りと文献調査を中心に研究を実施する。
計画研究班B01は、コネクティビティと信頼構築がどのようにイスラーム国家体系と関連し、いかなる「イスラーム世界」を形成していたのかを明らかにすべく、「イスラーム共同体の理念、国際法、外交関係」「海域世界における貿易と国家間関係」「支配エリートのコネクティビティと帝国性」といった個別のテーマについて、世界各地の図書館・文書館による文献調査を中心に研究を実施する。
計画研究班 B02 は、現代世界の喫緊の課題である「ミャンマーのロヒンギャ問題」「シリア情勢をめぐる国際社会の確執」「インドにおける宗教間対立」などの分断・対立状況に関し、ムスリム・非ムスリム双方の視点から考察し、宗教思想と紛争解決に向けた戦略が交錯しつつ信頼構築に向かう動態を解明する。宗教的な確信に基づきつつも、戦略の転換、すなわち可変性の宗教的な可能性を考察することで、ムスリム独自の信頼構築の文脈を明らかにする。
計画研究班B03は、紛争影響地域における「非ムスリムとの信頼・平和構築の検証」「イスラーム圏のコネクティビティ活性化による支援と保護の検証」「異なるイデオロギー間の対話・仲介の検証」などをテーマとし、ムスリムと非ムスリムの共存が政治争点化し、紛争に発展した地域社会を対象として現地調査を行う。研究会開催等を通じて、分断をのりこえる平和・信頼構築の実践知に関する比較研究を行う。
計画研究班C01は、世界各地に多数現存するアラビア文字諸言語の人名録歴史資料に対し、XMLによるテキストエンコーディングを行い、「インド洋海域・西南アジア地域における人と人の関係構築とその社会的影響」について可視化し、分析する。その際に「アラビア文字資料に対するテキストエンコーディングの手法」を開発するとともに、A01–B03各班の研究活動と連携して「コネクティビティ・信頼構築の質的分析の手法」を開発する。
研究計画班A01は、イスラーム世界における様々な経済制度(貨幣・金融・市場・所有制度)に注目し、時代間比較や他地域の類似制度との比較を通じて見出される独自性と普遍性を考察する。特に「イスラーム経済のモビリティ(柔軟性+超コネクティビティ)の探究」「イスラーム経済と資本主義の比較」「次世代地球社会におけるイスラーム経済の可能性」などの個別テーマについて現地調査と文献調査を中心に研究を進める。