終了しました 活動記録 ワークショップ「紛争後の権威主義体制の「正統性」と「信頼度」」(Jul. 5)
2022.06.17
カテゴリ: ワークショップ
班構成: B03 平和構築
B03「紛争影響地域における信頼・平和構築」班は、ワークショップ「紛争後の権威主義体制の「正統性」と「信頼度」」を開催いたします。
日時:2022年7月5日(火) 10:00~12:00
報告者:富樫耕介さん(同志社大学)
討論者:鈴木啓之さん(東京大学/B03班研究分担者)
使用言語:日本語
開催形態:ハイフレックス/要事前登録
*「イスラーム信頼学」関係者のみの限定公開となります。
会場:法政大学市ヶ谷キャンパス80年館7階大会議室(丸)
*80年館の入り口は大階段下の右側にあります。
プログラム:
10:00~10:05 趣旨説明(熊倉潤)
10:05~10:45 富樫耕介
「紛争後の権威主義体制の「正統性」と「信頼度」:
チェチェン・カドィロフ体制下のilliberal peaceはどのように住民に受容されているのか」
10:45~11:00 討論者(鈴木啓之)によるコメントと討論
11:00~11:30 全体討論
11:30~12:00 今後の活動について打ち合わせ
【要旨】
冷戦後、甚大な被害を生み出す内戦や地域紛争を平和的に解決することが求められ、国際社会はそのための支援を積極的に行なってきた。だが、紛争後の社会に成熟した民主主義体制を構築しようと試みるLiberal peace-buildingは、アフガニスタンに見られるように大きな課題に直面している。代わって注目を集めるようになってきたのが、一方の軍事的な勝利とその後の権威主義体制下の安定、いわゆるIlliberal peace-buildingである。しかし、具体的にどのようにIlliberal peaceが機能しているのか、統治の形態が注目されるようになったのは近年である。これらの研究は主に、空間的統制(反対派の弾圧)、政治・経済的統制(エリートの取り込み)、言論統制(大衆への支配的言説の浸透による体制の正統化)という体制側の働きかけについて分析して来た。
だが先行研究では、このような体制側の働きかけがなぜ効果を発揮し、紛争後の安定に寄与しているのかについては十分に考察してこなかった。空間的統制や政治・経済的統制は、反乱の有無や体制の持続によって、その効果を推定することが可能であるが、問題は言論統制である。これは、体制側によるIlliberal peaceを正統化するための支配的言説が住民にどのように浸透し、受け入れられているのかを問わずして、その効果を測ることは本来できないはずである。以上の問題意識から本報告では、Illiberal peaceは住民によってどのように受容されているのか(あるいは、いないのか)を明らかにしようと試みる。本報告では、紛争後の権威主義体制の「正統性」と「信頼度」を住民の認識から迫ろうと試みる。
お問い合わせ先:
山本沙希 yamamoto_saki[at]rikkyo.ac.jp
活動記録
本報告は、2018-2019年にチェチェン共和国において報告者が実施したインタビュー調査(10人)に基づき、その言説分析を通して読み取れるIlliberal peaceの受容の論理に関する発表であった。報告者は、Illiberal peaceに関する理論的研究を整理し、「弾圧」、「正統化」、「吸収」など、先行研究は概して権威主義体制側の働きかけに注目する傾向にあり、その受け手である住民側の視点が考慮されてこなかったと指摘した。以上を問題意識として報告者は、紛争地の住民が体制側の「正統化」をめぐる支配的言説をどのような論理に基づき受容しているかという、受容メカニズムを考察対象に設定した。とりわけ先行研究では十分に区別されていなかった体制側による「弾圧」と「正統化」を分け、特に後者の観察に焦点を絞り、住民のIlliberal peaceの受容メカニズムを考察する必要性を主張した。ここでは、現体制の成果を住民がいかに評価するのかが問題になるからである。
報告者は、チェチェン住民へのインタビュー調査に際して、①独立派政権時代(1990年代)を批判的に評価し現体制を称賛する言説、②独立派政権時代を評価しつつ現体制も評価する言説、③独立派政権時代を評価し現体制を避けるといった3類型の回答を想定した上で、調査対象者がいずれの形で現体制について語るかに着目した。言説分析の結果、①〜③それぞれの回答が観察されたが、傾向として「平和」という現体制が強調する政策的アウトプットをある程度評価する回答者の言説が見られた。報告者は、住民は現体制の問題点を認識しつつも、体制側の成果を評価することでIlliberal peaceを受容していると明らかにした。報告では「紛争より現状の方がまし」といった消極的な理由や、自分たちを納得させる手段として現体制を受容している可能性も指摘された。また報告者の想定を裏切り、調査対象者たちは冷静に自分たちを取り囲む状況を理解している点も指摘された。
本発表に対して討論者の鈴木啓之氏は、自ら納得して受け入れることと諦めて受け入れることとの距離感や、上述の3類型に加え「④旧体制と現体制双方を否定する」可能性について質問を寄せた。さらに別の参加者からは、紛争影響地において「体制を受容しても信頼はしない」傾向は一般的ではないかといった指摘や、個人的な感情に紐づきやすい信頼という問題を紛争というマクロな状況に結びつけることの困難について指摘があった。続いて、「なぜこのような語りが現時点で生まれるか」を考察に加え「語り得なさ」へアプローチすることの意義や、「あたかも(体制を)受け入れたかのように振る舞う」大衆行動についての既存研究とチェチェンの事例との共通点について等、様々な観点に基づいたコメントや質問が挙がり、活発な議論が交わされた。(文責:山本沙希)