終了しました 活動記録 ワークショップ「強いられた移動を受け止める近代の仕組み」(Apr. 29)

2022.04.12

カテゴリ: ワークショップ

班構成: C01 Digital HumanitiesA03 移民・難民

A03「移民・難民とコミュニティ形成」班とC01「デジタル・ヒューマニティーズ的手法によるコネクティビティ分析」班は、明治大学文学部助手の成地草太さんをお招きし、ワークショップ「強いられた移動を受け止める近代の仕組み」を開催いたします。
多くの皆様のご参加をお待ちしております。

ワークショップ「強いられた移動を受け止める近代の仕組み」

日時:2022年4月29日(金)15:00-17:00
報告者:成地草太(明治大学文学部助手)
報告題目:「近代オスマン帝国の難民定住政策における信頼構築とコネクティビティ:
        1860年代の難民委員会にみる難民支援体制の仕組み」
コメンテーター:新井和広(慶應義塾大学、C01班研究分担者)
司会:黒木英充(東京外国語大学AA研/北海道大学SRC、A03班研究代表者・領域代表者)


【発表要旨】
 オスマン帝国(1300頃–1922)最後の150年間は帝国の解体過程で生じた膨大なムスリム難民の受入と再定住化の問題に直面した時代であった。この難民定住政策は国家と社会との連携のもと展開された様々な難民支援活動に支えられていたといえる。本発表では、こうした難民支援体制の仕組みを信頼構築とコネクティビティの観点から考察するべく、とくにクリミア戦争(1853–56)後のクリミア・北コーカサス難民流入の際に初めて設立された移住管理機関、難民委員会の活動に焦点を当てる。具体的には同委員会からオスマン社会へ向けた支援要請とその論理、それを受けた帝国住民の支援活動について、義捐金の寄付や移民村の建設等にみる奉仕活動等の事例から検討する予定である。

使用言語:日本語
開催形態:一般公開/無料、Zoomによるオンライン開催(事前登録制)
こちらのリンクよりお申込みください。
https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZItduyvrDwsGtwdlPYp25cxNpbyOBfK-lT3

共催
科研費学術変革領域研究(A)「イスラーム的コネクティビティにみる信頼構築:世界の分断をのりこえる戦略知の創造」
A03班「移民・難民とコミュニティ形成」(研究代表者:黒木英充(ILCAA/SRC); 20H05826)
C01班「デジタル・ヒューマニティーズ的手法によるコネクティビティ分析」(研究代表者:熊倉和歌子(ILCAA);20H05830)

問い合わせ・連絡先
太田絵里奈 e.otatsukada[at]aa.tufs.ac.jp

活動記録

 多民族・多宗教のオスマン帝国では、19世紀を通してバルカン半島を中心に領土の縮小が進むたびに、喪失領土のムスリム住民が流入し、人口に占めるムスリムの割合が上がり続けた。なかでもクリミア戦争(1853–56)後には、ロシア領クリミアと北コーカサス両地域から未曾有の規模のムスリムが押し寄せ、この難民にどのように対処するかが、喫緊の大問題となった。

 本ワークショップでは、1850年代–60年代のオスマン帝国におけるムスリム難民保護・難民支援体制の構築という研究課題から、「イスラーム的コネクティビティにみる信頼構築」について考察した。報告では、(1)クリミア戦争後の1850年代後半におけるムスリム難民保護の制度化、(2)難民保護を実現するために1860年に設置された移住管理機関、難民委員会の活動、(3)難民委員会を介した形成された国家と社会に基づく難民支援体制の構造、という三つの論点を検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。オスマン帝国の難民保護の背景には、イスラーム的な移住者保護の観念があり、ムスリム難民を十分に受け入れることでイスラーム国家の正統性を主張し、難民や帝国臣民との信頼を構築しようという政府の狙いがあった。そのために、1860年代においてオスマン政府は国家の責任で難民を保護するために、難民委員会という移住管理組織をつくり、義捐金を集め、各地の臣民を慈善・奉仕活動の形で動員して、難民の定住支援に当たらせる体制を形成した。受入れ社会のムスリムと非ムスリムが一緒になって難民定住に協力した例もあり、宗教を超えた住民間のコネクティビティも確認される。オスマン帝国における難民支援体制とは、国家が難民委員会等をとおして帝国社会のヨコのつながりである難民救済のネットワークに介入し、それを取り込む形で組織化することで形成されたといえる。

 コメンテーターの新井和広氏からは二つの問題点が挙げられた。第一にオスマン帝国の国家としての在り方および難民の定義の仕方についてである。オスマン帝国の難民受入れについて、難民それぞれのもつムスリムという側面だけではなく、旧オスマン臣民という側面に着目することも、重要な論点となるのではないかと提案され、さらにオスマン臣民と国籍保持者との関係性についても指摘された。第二に、支援する側と支援される難民のアイデンティティの問題について、オスマン帝国の難民受入れにおいて、本研究がイスラーム性を重視した一方、オスマンの多民族・多宗教的性格や非ムスリムの移民・難民にも目を配ることの重要性が提案された。さらにフロアからは、20世紀以降の国民国家による難民受入と19世紀帝国による難民受入との相違、帝国外へ出る移民・難民の存在、難民受入の動機、史料に現れる難民に対応する移動に関わる語彙(移住、避難など)等々、貴重かつ的確なコメント・質問がなされた。(成地草太、2022年6月1日掲載)

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