終了しました 活動記録 2021年度イスラーム信頼学全体集会「信頼学のレシピ 材料編 ~素材と方法~」(Mar. 14)

2022.02.03

カテゴリ: シンポジウム

班構成: 総括班

2021年度イスラーム信頼学全体集会
「信頼学のレシピ 材料編 ~素材と方法~」(Mar. 14)
13時~17時(オンライン開催)

 

「イスラーム信頼学」って、どのように研究するの?


2年度目を終えようとしているイスラーム信頼学。
今年度の全体集会は、「材料」に焦点を当てて、イスラーム信頼学の研究方法について検討したいと思います。
第一部では、今年度新たに加わった公募研究の研究課題の目的と方法を、各研究代表者が紹介します。
第二部では、来年度に開催される国際会議を担当する
計画研究A02班とB02班の研究代表者による話題提供を行います。
どうしたら「美味しい」信頼学ができるのか?みんなで知恵を出し合いましょう!






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【プログラム】

総合司会:太田信宏(東京外国語大学AA研)

開会の挨拶(趣旨説明)
(13時~13時20分)
黒木英充(東京外国語大学AA研/北海道大学SRC・A03班研究代表者・領域代表者)

第一部 材料を集める(13時20分~14時30分)
:公募研究代表者によるプレゼンテーション
司会:長岡慎介(京都大学・A01班研究代表者)

登壇者:ハシャン・アンマール(立命館大学)
    磯貝真澄(千葉大学)
    須永恵美子(東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門)
    太田(塚田)絵里奈(東京外国語大学AA研)
    山尾大(九州大学)
    黒田賢治(国立民族学博物館)
    二ツ山達朗(香川大学)

―休憩(14時30分~14時40分)―

第二部 素材を吟味する:戦略としての翻訳・思想(14時40分~15時40分)
:A02班、B02班代表による話題提供

登壇者:山根聡(大阪大学・B02班研究代表者)
        「ターリバーンの方針の変化にみる戦略的判断」
    野田仁(東京外国語大学AA研・A02班研究代表者)
                 「イスラーム法と慣習法のあいだ:紛争解決のための翻訳」(仮)


―休憩(15時40分~15時55分)―


第三部 全体討論(15時55分~16時55分)

閉会の挨拶(16時55分~17時)

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使用言語:日本語
開催形態:一般公開/無料、Zoomによるオンライン開催/要事前登録
事前登録:参加ご希望の方はこちらのフォームからお申し込みください。


主催:
科研費学術変革領域研究 (A)
 「イスラーム的コネクティビティにみる信頼構築:世界の分断をのりこえる戦略知の創造」総括班
  (研究代表者:黒木英充(ILCAA)課題番号:20H05823)

お問合せ:
「イスラーム信頼学」事務局 
E-Mail : connectivity_jimukyoku[at]tufs.ac.jp

活動記録

 2021年度イスラーム信頼学全体集会には、今後、本プロジェクトを段階的に発展させていくための第1回の班横断的な催しであるという意味合いから「信頼学のレシピ 材料編 ~素材と方法~」という表題が付けられている。料理になぞらえて第1回は素材を吟味する「材料編」、第2回(2022年度)は素材に手を加える「調理編」、第3回(2023年度)は調理したものを整える「盛り付け編」、そして最終回(2024年度)は出来上がったものを味わう「実食編」という流れが想定されている。今回の「材料編」では、実際の素材や方法を考えるために公募研究の代表者7名およびプロジェクトを構成する二班の代表者(A02班:野田仁氏、B02班:山根聡氏)から話題提供がなされた。全体は三部構成であり、第一部「材料を集める」が7名による報告、第二部「素材を吟味する:戦略としての翻訳・思想」が野田氏と山根氏による報告、そして最後の第三部が「全体討論」である。加えて、領域代表の黒木英充氏が冒頭と閉会時に挨拶を行った。本報告記は第二部を中心に解説する。
 冒頭に黒木氏は、コネクティビティが試練にさらされている現状と関連して趣旨説明を行った。コロナ感染症やウクライナ情勢によって既存のコネクティビティが脆弱となるなかで、そうしたコネクティビティの危機を発端にまで立ち戻って分析する態度が希薄となっている。われわれは、コネクティビティの構築に関わってきた人々の想像力を当時の現場に立ち返って想像し、回復に求められる処方を検討する必要性がある。本集会で提供される話題も、そうした想像の働かせ方と関連付けて読み解いてほしいという。
 第一部の公募研究代表者7名による報告では、「信頼」や「コネクティビティ」に取り組むうえでの素材と方法論の豊かさが提示された。半数以上の代表者が人文情報学的手法を取り入れており、「信頼」や「コネクティビティ」を数量化・可視化して提示しようとする点に公募研究の新規性が表れていた。
 第二部では最初の登壇者である野田氏が「イスラーム法と慣習法のあいだ:紛争解決のための翻訳」と題してカザフスタンを事例とした詳細な研究報告を行った。はじめに理論的前提として、お互いを十分には知りえない人間関係において、翻訳が関係構築の足掛かりとなることが示された。そのうえで、カザフスタンのなかでも草原地帯に着目する意義が論じられた。多民族・言語状況のカザフスタンにおいて翻訳は必須となるだけでなく、必ずしもイスラーム的な規範が通用しない草原地帯では(アラビア語やアラビア文字といった)宗教的な言語や文字はその解釈・字義どおりには移植されない。草原地帯の翻訳実践の検証は、「イスラーム」を相対化したうえでイスラーム的コネクティビティをより深く理解することに繋がるという。以上の「翻訳」に関する視座を踏まえたうえで野田氏は翻訳を伴ったイスラーム法と慣習法の関係をカザフスタンの事例をもとに解説した。草原地帯の慣習法はアラビア語の語彙を取り入れてイスラーム法と融合するだけでなく、「慣習法」の成文化による影響も受けてきた。そうした融合状態の慣習法を検証するうえで中国やモンゴルと接する国境地帯の国際集会裁判は適例であり、今後、同裁判の記録を集中的に検証していく必要があるという。報告の最後では改めて、「普遍的」な法や制度を相対化したうえでイスラーム的な要素の関係構築に果たしてきた役割を検証する必要が提起された。
 山根氏の報告「ターリバーンの方針の変化にみる戦略的判断」では、前半においてターリバーンの思想形成の背景が植民地期に遡って解説された。思想的源流は、近代南アジアのスンナ派三大学派の一つであるデーオバンド学派にあるものの、ターリバーンの担い手を輩出したパキスタンの同派のマドラサは、政治とは距離を置いたインドのそれとは異なってイスラーム主義の影響を受けてきた。パキスタンにおいて同派のマドラサは1980年代以降に急増し、北西部のマドラサではアフガニスタン出身の若者も数多く学んでいた。彼らは寄宿舎生活を通して墨守的な傾向を強めていったという。そして、アフガニスタンに侵攻したソ連に対抗するために資金や人がパキスタン北西部に流入するなかで若者たちは同地の部族的価値観から離反し、急進的なイスラーム思想に感化されていった。山根氏は、ターリバーンの結成(1994年)に至ったイデオロギー上の変化を踏まえつつも、その思想的根拠については十分に立証できていないと指摘した。中盤以降では、ターリバーン結成以降の彼らの志向する社会像や実際の取り組みについて、2021年8月のカーブル制圧以降にとくに着目して解説がなされた。旧政府関係者を恩赦して女性の社会進出を認め、中国やロシアに対しても外交活動を展開する様は、国際的に孤立していた90年代や武装闘争に固執した2000~2010年代とは大きく異なる。山根氏は報告の最後を、ターリバーンの思想的根拠および彼らの信頼構築のあり方双方をより一層、明らかにしていく必要があると指摘して締めくくった。
 全体討論では、公募研究の代表者および野田氏と山根氏に対して聴者から、詳細な事実確認に加えて検証手法の妥当性やコネクティビティとの関連について質疑が上がった。いずれも個々の報告を理解するうえで不可欠であったものの、議論全体を通して次年度に向けた展望を十分に描き出せたとは言えなかった。閉会にさいして黒木氏は、知の変換・翻訳に関わっていた主体の考えを今後、議論していく必要を指摘しており、コネクティビティとその背後にある戦略を読み解くうえで「想像力」の行使は一貫した問題関心であった。その一方で、そうした関心に照らして各報告を読み解くことは聴者一人一人に委ねられており、個別報告の理解に精一杯となった執筆者のような聴者も多くいたはずである。全体集会の趣旨を再確認し、議論の道筋をつけるような場をオープンな質疑の前に設けても良かったかもしれない。加えて、発表者と聴者が会場およびオンライン双方から参加するハイブリッド形式であったものの、不具合から会場内外で視聴のスムーズさに齟齬が生じてしまった。執筆者の自戒も込めて今後、ハイブリッド形式に技術面で習熟していく必要がある。以上、反省点を中心に述べたが、2022年度の国際会議に向けて貴重な機会となったことにも触れておきたい。国際会議の担当班の代表でもある野田氏と山根氏は発表の最後に、柔軟な想像力を要する挑戦的な課題を提示した。今後、具体的な素材をもとにどのような調理が行われるのか、本プロジェクトの新たな展開が楽しみである。(参加者70名、文責:水澤純人)

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