終了しました 活動記録 ワークショップ「ルワンダのジェノサイド罪を裁いたガチャチャ―近隣に暮らす被害者と加害者の賠償をめぐる対話と関係構築―」(Jan. 31)

2023.01.06

カテゴリ: ワークショップ

班構成: B03 平和構築A03 移民・難民

B03「紛争影響地域における信頼・平和構築」班は、A03「移民・難民とコミュニティ形成」との共催で、ワークショップ「ルワンダのジェノサイド罪を裁いたガチャチャ―近隣に暮らす被害者と加害者の賠償をめぐる対話と関係構築―」を開催いたします。

日時:2023年1月31日(火)10:00~12:00
開催形態:オンライン
報告者:片山夏紀さん(大阪大学)
討論者:長有紀枝さん(立教大学)
使用言語:日本語
*「イスラーム信頼学」関係者のみの限定公開となります。


プログラム
10:00~10:05 趣旨説明(石井正子)
10:05~10:45 片山夏紀
「ルワンダのジェノサイド罪を裁いたガチャチャ―近隣に暮らす被害者と加害者の賠償をめぐる対話と関係構築―」
10:45~11:00 討論者(長有紀枝)によるコメントと討論
11:00~11:30 全体討論
11:30~12:00 今後の活動について打ち合わせ

【要旨】
アフリカのルワンダでは1994年にジェノサイドが引き起こされ、50万人以上のトゥチが虐殺された。旧政府に煽動された多くのフトゥ民間人がジェノサイドに加担したことで、それまで近隣で暮らし関わり合ってきた農村の住民は、被害者と加害者になった。新政府は、ジェノサイドに加担した民間人を裁く臨時の裁判「ガチャチャ」を2001〜2012年に全国の市町村で施行し、18歳以上の住民全員が裁判の運営に関わることが義務付けられ、全国のガチャチャで裁かれた加害者は約100万人に及んだ。ガチャチャは殺人罪と傷害罪に服役と公益労働(道路づくりや家づくりなど)を科し、窃盗罪と器物損壊罪に賠償を命じた。なお聞き取り調査を行った加害者の大半は全ての罪で裁かれたため服役と公益労働が終われば暮らしていた農村に戻り賠償を払い始めたが、2014〜2016年に実施した現地調査では賠償が完済されていない事例が多数みられた。加害者が略奪した財産の賠償は膨大であり、賠償に充てる財産を売り尽くしても完済できず、耕作する土地や家畜を失い貧困に陥っている。またジェノサイドで財産を根こそぎ奪われた被害者も、賠償を受け取ることができず貧困に陥っている。政府は賠償を肩代わりせず当事者間で解決するよう定めたことで、賠償の完済はさらに長引き深刻な貧困の連鎖が生まれている。被害者と加害者はこのような苦境に置かれているが、ジェノサイド後も近隣に暮らし日常的に関わり合いながら、対話によって賠償の解決に取り組んでいる。本報告では、被害者と加害者のこのような関係構築の実践を示す。

お問い合わせ先:
山本沙希 yamamoto_saki[at]rikkyo.ac.jp

活動記録

本発表はジェノサイドの当事者への聞き取り調査の内容と、ガチャチャ裁判の裁判記録を閲覧し聞き取り内容と照合した事例を挙げ、ジェノサイドの賠償をめぐる対話が行われることで被害者と加害者の関係がどのように構築されているのかを考察した。
ガチャチャ裁判の法律は、裁判が命じた賠償に被害者と加害者が合意すれば起訴しないと定めた。それにより被害者と加害者は直接交渉し、合意を取り、賠償を払い、賠償を終わらせなければならなくなり、その過程で賠償をめぐる対話が行われた。被害者と加害者はジェノサイド前から農村社会で住民同士として関わり合って暮らしており、ジェノサイド後も住民として日常生活を共にすることで賠償をめぐる対話が促される。賠償は当事者だけの問題ではなくコミュニティ全体の問題として捉えられ、家族や周囲の住民も賠償をめぐる対話に加わり賠償問題に取り組むことで、当事者間の関係はコミュニティの住民間の関係にまで広がって構築されている。賠償問題を解決するために対話を行う方法が取られたことで、被害者、加害者、その家族、周囲の住民間の関係が構築され信頼が醸成される事例があることを示した。
本発表に対して、討論者の長有紀枝教授の指摘は次のようなものであった。ジェノサイド条約を要約すると、ジェノサイドは集団を破壊する意図をもって行われる犯罪であると定められている。そのため集団を破壊する意図をもたずに行われる犯罪(ジェノサイド下で行われた犯罪であっても、ジェノサイド前の人間関係の妬み嫉みに起因する犯罪など)、同じ民族間で行われた犯罪(フトゥがフトゥを殺害するなど)は、ジェノサイド罪ではなく人道に対する罪になる。本報告のタイトルは「ルワンダのジェノサイド罪を裁いたガチャチャ」であるが、ガチャチャ裁判で裁かれた犯罪はジェノサイド罪と人道に対する罪の両方が入り混じっているのではないかという指摘であった。
この指摘を受けて現地で収集した情報を整理すると、次のように考えることができる。ガチャチャ裁判の法律はジェノサイド条約、ジュネーブ条約、戦争犯罪時効不適用条約に基づきジェノサイド罪および人道に対する罪を定めた。しかし実際には、これらの罪は分けて裁かれなかった。ガチャチャ裁判の判事や運営に携わった人々は法資格(裁判官や弁護士や検事など)を持たないコミュニティの住民であったため、彼らができる限り審理しやすい方法が考案されたためであろう。ガチャチャ裁判は加害者の犯罪の種類(殺害、レイプ、暴行、窃盗、器物損壊など)に応じて量刑が決められ、加害者が集団を破壊する意図をもっていたかどうかは区別されなかった。討論者の指摘のようにこれらの犯罪が区別されて裁かれていれば、罪状や量刑はより細かくなっていたと考えられる。
この活動記録は討論者の指摘の一部とそれに対する応答にとどめている。しかしオーディエンスからも様々な質問や意見が挙げられ、それらは研究を発展させるうえで大変貴重であった。発表と議論の機会を頂いたことに感謝申し上げます。(文責:片山夏紀)

その他のお知らせ

PAGETOP