Blog #5 「地域研究と計量分析を架橋する」
2022.01.26
カテゴリ: イスラーム信頼学ブログ
執筆者: 山尾 大
本公募研究では、中東イスラーム世界でイスラーム主義組織がどのように人々を動員しているのかという古典的な問いを、社会科学の新しい手法/方法論をつかってアプローチすることを目指しています。具体的には、計量テキスト分析とよばれる、テキストを数値化して取り出して解析する手法と、ネットワーク分析と呼ばれるつながりの強さを数値化して分析する手法を使うことを考えています。
地域研究者として、研究対象の刊行物には日々目を通しています。毎日熟読しているテキストを、何年分も大量に収集し、コンピューターの力を借りて解析することによって、読み飛ばしていたり、見落としていたりする関係性やつながりを浮き彫りにすることがねらいです。具体的には、複数のシーア派イスラーム主義組織が刊行している新聞や声明文を、同じ手法で収取し、一つのデータセットを作ります。それらの刊行物に加え、ソーシャルメディアなどのビッグデータもあつめて大きなデータにします。それらを使って、イスラーム主義勢力がどのようにつながっていて、どのように人々を動員しようとしているのかという問題を浮き彫りにしようというわけです。こうした動員の結果、中東各地の政治社会がどのように分断されているのかという問題も、実証的に解明できるのではないかと考えています。
最終的には、従来の地域研究的な分析と、計量分析を有機的に統合し、これまでになかった発見ができるといいな、と考えています。
イラク主要紙のワードクラウド:イラクの主要紙の政治面10年分の記事を集めて作った巨大なデータセットの中に出現する頻出単語をプロットしたもの。
機械学習によって重みづけされた単語の配置:同じデータセットで、「宗派主義」と密接に結びついた単語に重みづけした結果をプロットしたもの。横軸を右に行くほど宗派主義的なワーディングになり、反対に左に行くほど和解や統合と密接に結びついた言葉であることを示している。
イラク主要紙の「宗派主義」をめぐる報道トーンの変遷:縦軸の上に振れるほど宗派主義を強調した報道トーンになっていることを示している。