2021年度公募研究 採択課題

「公募研究」とは、本研究領域の研究をより強化・発展・拡張するために「計画研究」と連携しながら実施する研究です。今年度は以下の3つのカテゴリーを設け、合計7件の課題が採択されました(研究期間は2022年度末までの2年間)。

1)本研究領域の計画研究(A01~B03)のいずれかをさらに補強する研究
  • 各計画研究の研究課題が対象とする時代・地域の拡張や非イスラーム世界も含めた他時代・他地域からの比較を行う研究
  • 各計画研究の研究対象を異なる視角や分析枠組みによって考察する研究
  • 2つ以上の計画研究を横断する視角からの研究
2)本研究領域の研究項目Cの人文情報学的手法を用いた研究に関連するもの
  • 計画研究C01とは異なる研究対象からコネクティビティと信頼構築を人文情報学的手法によって解明する研究
3)本研究領域のいずれの計画研究でもカバーできていない分野から提案される研究
  • D01:法やガバナンス、開発、メディア、教育、文学、芸術、ジェンダー等の観点からイスラームのコネクティビティと信頼構築に取り組む研究
  • D02:グローバルな政治・経済・社会及びその動態の中のイスラームの信頼構築についての研究
  • D03:人文社会科学の実験アプローチによってイスラームのコネクティビティと信頼構築の動態を解明する研究

研究タイトルと概要

  • A01イスラーム福祉制度を通した互助の信頼学:金融デジタル化を用いた寄進の新展開

    Khashan Ammar立命館大学

    本研究課題は、20世紀半ば以降発展したイスラーム経済の中で、近年特に注目されているイスラーム的な福祉制度を中心に研究する。福祉制度の中核となっているワクフ(寄進財産)とザカート(喜捨)が「互助の信頼性」によって成立していることを、アラビア語の古典的な法学の史資料と現代的な事例を総合して明らかにする。また、「伝統的な制度が再活性化される」という現象を、イスラーム的制度論の理論と視座を用いて位置づけ、再活性化が最新フィンテックを用いたイスラーム金融のデジタル化と結びついている現状を分析する。以上から、イスラーム福祉制度の「互助の信頼学」がポスト資本主義の可能性を有することを実証する。

  • A0218~19世紀のロシアにおけるイスラーム法学の継承をめぐるムスリム知識層の形成

    磯貝 真澄千葉大学

    本研究の目的は、18~19世紀後半のロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域において、イスラーム法学を中心とするイスラーム諸学の知識を継承したウラマー(イスラーム法学者、学識者)が築いた知的・人的なつながりの様相を解明し、それによって彼らがどのような身分集団的社会層を、どのようにして形成し、維持していたのか、そしてそれはどのように変化したのかを明らかにすることである。特に解明をめざす点は、第1に学問のための移動と人的ネットワーク、主要な学問拠点の形成と維持の様相であり、第2に婚姻と姻戚づくりの関係構築の分析によるウラマー家系の出現過程である。

  • A02「やさしいウルドゥー語」と多言語社会を巡る基礎的研究

    須永 恵美子東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門

    本研究は、ウルドゥー語の「言語権」に焦点をあてた基礎研究である。ウルドゥー語とは、パキスタンや北インドに加えて、南アジアのムスリムの間で広く話されている言語であり母語話者数よりも、第2、第3言語としての話者人口が圧倒的に多いという特徴を持っている。多言語国家であるパキスタンにおいて、「国語」による言語サービスの展開を捉え直し、「やさしいウルドゥー語」定着の可能性を探る。

  • B01前近代アラビア語史料のデジタル解析による文民エリートの人的ネクサス研究

    太田 絵里奈(塚田 絵里奈)東京外国語大学AA研

    本研究は、前近代アラブ地域において行政の担い手であったアラブ系文民エリートのプロソポグラフィーに基づき、彼らがいかにテュルク系軍人との関係を構築し、地位と権力を保持したかを分析することを主目的としその複層的関係性を可視化する方法論として、テキストエンコーディングを用いたデジタル解析を採用する。統治エリートのキャリアに正負の影響を及ぼした人的ネクサスを可視化し、かつその様態の量的分析を通じて、集団としての彼らの生存戦略を明らかにすることを目標とする。

  • C01計量テキスト分析とネットワーク分析をもちいたイスラーム主義組織の政治動員の研究

    山尾 大九州大学

    本公募研究では、計量テキスト分析とネットワーク分析の手法を用いて、中東イスラーム世界でイスラーム主義組織がどのように人々を動員しているのか、そしてその結果、いかに政治社会が分断されているのかを実証的に解明することを目指す。とくに、複数のシーア派イスラーム主義組織の新聞や声明文などの刊行物に加え、ソーシャルメディアなどのビッグデータも分析対象とし、従来の地域研究的分析と計量分析の有機的統合によって研究を推進する。

  • D02近代日本におけるイスラームに関する知的動態とムスリム理解をめぐる知識社会学的研究

    黒田 賢治国立民族学博物館

    本研究計画では、幕末期の日本の遣欧使節団の随行員たちが残した旅行記に着目し、往復路の途上におけるエジプトなどでのムスリムとの直接的な邂逅についての記述を手掛かりに、幕末期の日本社会におけるイスラームに対するアプローチを検討する。イスラームやムスリムとの直接的な接点が少なかった時代に、戸惑いを含めそれらをどのように捉えていたのかを検討しながら、「他者理解」について思索を深める。

  • D03SNSを媒体としたクルアーンがもたらすイスラーム的コネクティビティの変容

    二ツ山 達朗香川大学

    本研究の目的は、クルアーンを伝える媒体の変化によるイスラーム的コネクティビティの変容を考察することにある。具体的には、旧来のムスハフmushafやCDなどの媒体が垂直的権力関係を構築していたのに対し、SNSや動画共有サイトで投稿・共有されるクルアーンは水平的社会関係を構築しているという仮説を出発点とし、イスラーム的コネクティビティの紐帯や分断の変容について事例分析を行う。

2021年度公募研究 公募情報

2021年1月26日、文部科学省より、科研費(学術変革領域研究(A)(公募研究))の公募が開始されました。

【文科省公募通知等URL】
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/hojyo/boshu/1394559_00004.htm

今回公募されているのは、20の研究領域に係る研究計画です。

「イスラーム信頼学」の公募研究については、公募要領(下記URL)の21ページをご確認ください。

https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_gakjokik-0000012257_1.pdf

下の動画は、2021年1月29日に開催された公募研究説明会の際に収録したものです。

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