終了しました 活動記録 国際ワークショップ “Narratives, Knowledge Transmission, and Discourses on the Caliphate in Medieval Islam” (Mar. 6)
2024.01.23
カテゴリ: ワークショップ
班構成: A01 イスラーム経済B01 国家体系
B01班「イスラーム共同体の理念と国家体系」(代表:近藤信彰)は、A01班「イスラーム経済のモビリティと普遍性」(代表:長岡慎介)と共催で、国際ワークショップ “Narratives, Knowledge Transmission,and Discourses on the Caliphate in Medieval Islam” を開催いたします。会場は京都大学吉田キャンパスとオンラインのハイブリッド形式です。皆様のご参加をお待ち申し上げます。
日時:2024年3月6日 (水) 14:00~17:00
プログラム:
14:00 イントロダクション:近藤信彰(東京外国語大学AA研)
14:10 Han Hsien Liew (Arizona State University)
“”The Caliphate Will Last for Thirty Years”: Medieval Islamic Political Discourses on a Prophetic Hadith”
15:10 荒井悠太 (京都大学)
“Historicizing the Caliphate: Ibn Khaldūn’s Interpretation and Description of the age of al-Khulafāʼ al-Rāshidūn”
16:20 ディスカッション
コメンテーター:橋爪烈 (関西大学)
報告要旨
“The Caliphate Will Last for Thirty Years”: Medieval Islamic Political Discourses on a Prophetic Hadith
Han Hsien Liew
The hadith, “The caliphate will last for thirty years, followed by kingship,” forms the crux of Muslim debates over the distinction between a legitimate caliphate and worldly kingship. While scholars such as Muhammad Qasim Zaman and I-Wen Su have examined the hadith’s provenance and transmission during the first two centuries of Islam, this paper is more concerned with mapping the political discourses and debates that emerged from it after the crystallization of Sunnism in the ninth and tenth centuries. For instance, some Sunni scholars used it for polemical purposes in defending the collective reign of the four Rightly Guided Caliphs against Shiʿi claims that ʿAlī b. Abī Ṭālib was the rightful immediate successor to Muhammad. Other scholars, such as al-Nasafī (d. 1142), al-Āmidī (d. 1233), and al-Taftāzānī (d. 1390), grappled with the hadith’s literal meaning but refused to draw a clear demarcating line between the Rightly Guided Caliphs and the Umayyad and Abbasid caliphs who came after them, insisting that a legitimate caliphate still existed after the Rightly Guided Caliphs. Drawing on chronicles, theological writings, and hadith commentaries, this paper argues that these political and historical discussions often revolved around three political ideals: consensus, justice, and piety. They also show that Sunni thinkers continued to hold diverse opinions about the nature of the caliphate during a time when the caliphal office was losing its political significance in the Islamic world.
カリフ権を歴史化する:イブン・ハルドゥーンによる正統カリフ時代の解釈と描写
荒井悠太
アッバース朝カリフ権の衰退とともに、スンナ派におけるイスラーム政治思想の主要な関心対象はカリフ権からシャリーアの施行へと移ってゆく。アッバース朝滅亡後の時代を生きたイブン・タイミーヤに代表されるスンナ派学識者の「シャリーアによる統治」論においては、もはやカリフではなく君主とウラマーこそがシャリーア施行の担い手と位置付けられている。
しかし14世紀、『歴史序説』において独自の権力論を展開したことで知られる学識者イブン・ハルドゥーンは、法学者ではなく歴史家としての立場からカリフ権の問題に取り組む必要に迫られた。すなわち彼は、人間社会における政治権力として、王権(ムルク)の普遍的な必要性を説いている。また彼は『イバルの書』のなかで、イスラーム以前から14世紀末に至るまでの世界史を一貫して王権の移行プロセスとして描き出している。そこで彼は、スンナ派の伝統的な歴史観に基づき理想化されてきた正統カリフ時代を、彼自身の王権論と調和させつつ人類史のなかに位置付けねばならなかった。彼はみずから王権の源泉と定義づけたアサビーヤの概念を応用してカリフ権の性格を再解釈し、正統カリフ時代をアラブ人の歴史における部族的指導権から王権への移行期と捉えたのである。
使用言語:英語
開催形態:一般公開/無料、対面・Zoomによるオンライン開催/要事前登録
会場:京都大学吉田キャンパス 総合研究2号館4階大会議室(447) ※キャンパスマップ 34番の建物です
事前登録:対面で参加ご希望の方はこちらのフォームからお申込みください。
オンラインで参加ご希望の方はこちらのフォームからお申込みください。
共催:科研費学術変革領域研究(A)「イスラーム共同体の理念と国家体系」(研究代表者:近藤信彰(AA研)課題番号:20H05827)/科研費学術領域変革研究(A)A01「イスラーム経済のモビリティと普遍性」(研究代表者:長岡慎介(京都大学)課題番号:20H05824)
問い合わせ・連絡先:守田まどか mmorita[at]aa.tufs.ac.jp
活動記録
本ワークショップでは、中世イスラーム政治思想史を専門とするアリゾナ州立大学のHan Hsien Liew氏(B01班招聘)と、中世アラブの歴史叙述を専門とする京都大学の荒井悠太氏(A01班研究員)が研究報告を行った。Lew氏の報告は、「カリフ制は30年間続き、その後王権になる」というハディースをめぐるものであった。このハディースは正統カリフ統治と世俗政権の区別に関する中世イスラーム学者たちの議論の核心をなすものであり、Lew氏は9~10世紀のスンナ派確立後における、このハディースから生じた政治的議論や論争を詳細に考察した。荒井氏の報告では、アッバース朝崩壊後のカリフ権の解釈に関して、14世紀の歴史家イブン・ハルドゥーンに焦点をあて、彼がカリフ権を部族的指導から王権への移行期として再解釈し、王権とアサビーヤの理論に基づいて正統カリフ時代を位置付けた過程が明らかにされた。さらに、アラブ・イスラーム史を専門とし、両氏の報告に密接に関連するテーマも扱ってきた橋爪烈氏(関西大学)から、多くの専門的なコメントや指摘がなされた(とくに、Liew氏の報告に関連する研究として、橋爪烈「「正統カリフ」概念の淵源としてのタフディール―スンナ派政治思想の発生―」『世界史の研究』248巻696号,2016年)。