終了しました 活動記録 ワークショップ「信頼を可視化する」(Jan. 7)

2022.12.02

カテゴリ: ワークショップ

班構成: B01 国家体系C01 Digital Humanities

B01「イスラーム共同体の理念と国家体系」では、C01「デジタル・ヒューマニティーズ的手法によるコネクティビティ分析」および公募研究「前近代アラビア語史料のデジタル解析による文民エリートの人的ネクサス研究」(21H05374)との共催で、ワークショップ「信頼を可視化する」を開催いたします。皆様のご参加をお待ち申し上げます。

日時:2023年1月7日(土) 14:00~16:00

報告:
太田(塚田)絵里奈(東京外国語大学AA研/総括班特任助教)
「15世紀ウラマーの名目的師弟関係にみる“信頼”:RDFグラフを用いた可視化分析」(仮)

要旨:
 マムルーク朝期の人名録史料において中核を占めるウラマーをめぐっては、著名な個人や家系のプロソポグラフィー的研究が充実してきた。だが、彼らのコネクティビティに関しては、師弟関係や婚姻など、実態を伴う関係の分析が中心であったと思われる。
 本報告では、人名録に記録される「イスティドゥアーのイジャーザ(祈願の免状)」に基づき、15世紀のウラマーが構築した、名目的な師弟関係に着目したい。「イスティドゥアーのイジャーザ」は、遠隔地から集団的に請求・授与されたほか、授与者と被授与者を結びつける仲介を担った請求者が存在するなど、請求者の学的到達を保証する通常のイジャーザとは大きく異なる性質、位置づけにあったと考えられる。
 報告では、仲介者を起点に拡張される同時代ウラマーのネットワークを、RDFグラフを用いて分析することを試みる。そのうえで、かかる名目的なコネクティビティが大規模に構築されたことの社会的意義を、信頼という視座から検討したい。


コメンテーター:伊藤隆郎 (神戸大学/C01 研究分担者)

 

使用言語:日本語
開催形態:一般公開/無料、Zoomによるオンライン開催/要事前登録

事前登録:参加ご希望の方はこちらのフォームからお申込みください。

共催:科研費学術変革領域研究(A)「イスラーム共同体の理念と国家体系」(研究代表者:近藤信彰(AA研)課題番号:20H05827)/科研費学術変革領域研究(A)「デジタル・ヒューマニティーズ的手法によるコネクティビティ分析」(研究代表者:熊倉和歌子(AA研)課題番号:20H05830)/学術変革領域研究(A) 「イスラーム的コネクティビティにみる信頼構築」公募研究「前近代アラビア語史料のデジタル解析による文民エリートの人的ネクサス研究」 (研究代表者:太田(塚田)絵里奈(AA研) 課題番号:21H05374)

問い合わせ・連絡先:
守田まどか  mmorita[at]aa.tufs.ac.jp

活動記録

本報告の問題意識は二点に集約される。一つは前近代期のウラマーのコネクティビティをめぐり、デジタル・ヒューマニティーズ的手法に基づく「量的」な分析により、これまでの「質的」研究にはない側面を見出すというものである。二点目は、それによって可視化された「つながり」からいかなる信頼が見えたかを考察することである。
 その題材として、報告では「イスティドゥアーのイジャーザ(免状)」による、実態を伴わない師弟関係構築の慣行を取り上げ、15世紀人名録のデジタルテキストから抽出したイジャーザと授受の関係者をOpenITI mARkdownに基づきタグ付けし、RDFグラフによって可視化を試みた。イスティドゥアーのイジャーザは①授与段階で直接的な師弟関係がなく、②主に都市間で、集団として授受されており、③「取りまとめ役」が存在し、④学者としての栄達後にも獲得された。これらの特性は、この種のイジャーザが通常のイジャーザにはない水平方向の「広がり」を有していたことを示している。
 報告を通じ、イスティドゥアーのイジャーザが、旅のリスクや金銭的負担を負うことなく、遠方の高名な師から大量にイジャーザを獲得することで、師弟関係構築における極めて効率的な方法であったことを明らかにした。このような名目的な師弟関係は「弱い」紐帯とみなし得るが、その情報伝達における効率性に鑑みれば、分化したウラマー社会の結合・維持というマクロレベルにおいて、当該慣行が一定の役割を果たしていたのではないかと考えられる。また授与者にとって、面識のない請求者へと免状を与える行為は、預言者に遡及する学統を付託する、彼らの将来性に対する一種の「賭け」とみることができる。この「賭け」を担保したのは、「取りまとめ」を担った仲介者が「信頼」のノードとしての役割を担っていたからに他ならない。
 コメンテーターを務めてくださった伊藤氏からは、集団イジャーザの慣行を指す術語の時代的変遷の可能性など、貴重なご指摘が多数寄せられた。また、イジャーザを含む人名録編纂の元史料についても、具体的な記述をご紹介いただいた。参加者からは、「学統」や「集団」など、ウラマーのあり方をめぐる表現、ハディース学者と人名録編纂の意図に関する質問、コメントが寄せられ、15世紀から時代を広げて事例収集を行なう必要性を強く感じた。今後は大規模な師弟関係構築が慣行化した時代的背景を探っていきたい。
                                                                                       太田(塚田)絵里奈

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